交点の先で

酒も飲めないし煙草も吸えないし、こういうときわたしはどうやって過ごしてたんだろうなあとか考えてたら、今朝、無意識のうちに、駅のキオスクで芸術系の雑誌を大量買いしてしまった。所要時間4分。単なる電車待ちの時間だった。あーこうしてわたしはエンターテイメントに安心を求めて生きてきたんだな、って朝からずっしり重くなった鞄の中を見て思った。絵画でも書物でもアイドルでも、自分と無関係なものを愛でることで何かが満たされるというか、目も耳も頭も全部目の前の対象に投げ出す瞬間がときどきあることで、現実とのバランスをとってるというか。


何が問題なのかを考える。解決すべき問題は特にない。結論は、「今までのような特別な関係はもう終わり。友達として会うのはアリ」ってラインから覆らないだろう。日曜日、彼は衝動的に大事な告白をしたんじゃなくて、ずっとあの子の心の中では決まってたことだから。じゃあ何がわたしを不穏な気持ちにさせているのかというと、わたしからしたら、お気に入りのぬいぐるみを取り上げられたようなものなんだ。昨日まで毎日触って抱きしめてたのに、いきなり近づいちゃだめって言われて、でも別になくなったわけでもなくずっとそこにある。でも自分から手を出しちゃいけない。そういうルール。今手元にないことが辛いんじゃなくて、突然断ち切られたことが辛いんだ。人間の苦しみって「思ってたのと違う!」っていう思い込みから来てたりするから。わたしが勝手に、このまま楽しい日常が続いていくんだと思ってただけで、向こうが「いつか言わなきゃ」って思ってたとしたら、現象だけみればこの辺が潮時だったんだろう。だったら初めから仲良くならなきゃよかった、って一瞬思ったけど、でもこの3ヶ月間の記憶が楽しすぎて、最終的に無かったほうがよかったとは思わない。映画とか舞台とかいっぱい連れてってくれて、パリ中いろんなところ一緒に歩いて、セーヌ河沿いで年越ししたり、ドイツから帰ってくるのが待ちきれないって言って東駅まで迎えにきてくれたり、帰りたくないねーとか言ってるうちに終電逃してほんとに帰れなくなってジョエルを心配させたり、白い花束持ってあの子のうちに遊びに行ったらあったかい料理と手づくりのガトーショコラで迎えてくれたり。まあ甘ったるい日々だったよ。人目をはばからないで言えば、本気でわたしは愛されてた。いや、まじで。


「人間には、偶然出会ったものから運命を切り開く能力が備わっている」っていうわたしの好きな言葉があるんだけど、あの最初の日に、あの子の誘いをむげに断らなくてよかったなと思う。まさかこんな展開になるとは思ってなかったけど、今はなんかまたちょっと新しい境地に辿り着いた気がするし。これで終わりか、はたまた始まりなのかはわかんないけど、あの子のことは一生大事にしようと思う。そう思える程度には、今は気持ちが落ち着いた。これ以上あの子のことを考えない、そういう優しさをわたしは選択する。わたしはわたしの人生を生きなければ。だから、いつかまたね、交点の先で。可愛い日本人のお嫁さんが見つかりますように。