温室の雑草

今の部屋選んで良かったのかな…って、今さらだけど迷いが出てきた。このマンションの周りは平和なんだけど、昨日と今日ひとりで帰ると、駅周辺と途中の電車がちょっと治安悪くて怖い気がしてしまう。なんで怖いかってつきつめて考えてみたら、黒人やアラブ人が多いから…なんだよね。正直に言って。わたしは日本にいるとき、「トルコとかモロッコとか香港とか、文化が混ざり合ってる土地に行ってみたい」って思ってたけど、実際そのなかに住んでみると、やっぱり、少し怖い。2日目に家を決めてしまったあと、3日目に左岸に行って落ち着いたパリの様子を思い出してしまったから、後悔がちょっと出てきた…のかな。
「郊外」っていうとパリでは特別な意味を持っていて、2006年のパリ暴動も郊外に住む移民の若者たちから始まってる。(それについての映画を、アメリでニノ(!)を演じてたマチュー・カソヴィッツが作ってるので、機会があれば観てください。「憎しみ」っていうタイトルです*1)そもそもわたしだって移民だし、現代のパリの様子を知るならこっちのほうがいろんな人種の人がいていいかなってあのときは判断したんだけど…もうひとつの候補の家のほうが白人が多い落ち着いた地域だったので、失敗したかなーって思ったり、いやいやこちらに住んでいろんな人種の人に慣れるのも勉強だろうって思ったり、葛藤がやまない。ジョエルはフランス人だし、きちんとしたお仕事についているので、パリ市内に住むこともできたはず。どうしてここを選んだんだろう。後で聞いてみよう。
東京の神楽坂の部屋が、わたしはほんとに好きだったんだよね。あの街は昔からの地元の人がたくさん住んでいて、東京の真ん中だけど静かで品の良い土地だった。どこの街でも、中心に行くほど伝統的で移民が少ないのは同じ。パリは特に、ここからパリでーす、って線がはっきりしてるからなあ。
もう一度決めてしまったことだから部屋の変更はできないし、ここに1年住むと思う。だけど今日初めて、自分が日本人だなあって実感した。これまでどんな場所に住むかもどんな仕事に就くのかも、国家とか世間とかに干渉されずほったらかしにされてたような気がしてたけど、それでも日本人しかほとんどいない場所で守られて生きてたんだなあって。それこそ温室の雑草。今回パリに来て、温室育ちを守り抜くか野生の雑草として生命力をつけるか、選ばされてる気がする。


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ジョエルに「どうしてここに住むことにしたの?」って聞いてみた。そしたら、子どものころからこの街で生まれ育ったんだって。世界中旅してる間も、帰ってくるのはいつもこの街で、今も住んでいるっていうことだった。「昔より移民の人は増えたけど、すばらしいことだと思う」って言ってた。パリにいれば世界中の国の人と会えるわ、すばらしいじゃない?って。ああ、やっぱりこの人の家に住むことにしてよかったかも。