ピアス

映画の『真珠の耳飾りの少女』でフェルメールが少女の耳にピアスの穴を開けるシーンがあったけど、あのエロティックさって他にない。静謐な空気の中、無垢な彼女の耳たぶに穴を穿ち真珠を飾るっていう。凡庸だけどあれは処女喪失の暗喩だと思う。人魚姫が下半身を割いて二本の脚を得たのと同じようなこと。


初めてピアスを開けたのは19歳のときだった。きっかけというわけではないけど、高校のときから「次に好きな子ができたらピアス開けよう」って思ってて、まあ開けたんだけど、だからといって別に何も変わらず、結局大学卒業するまでその子には何も言わず終わったんだった。ピアス開けた次の日の英語の授業のあとで、友達がわたしの耳に気づいた光景だけ鮮明に覚えてる。


社会人になってから忙しくてしばらくピアスしないでいたら、その穴がいつのまにか埋まってしまって、最近はイヤリングもクラシカルでいいなあとか思ってしてた。でも今年に入ったくらいからピアスしたい欲がむくむくわいてきて、今日勢いで開けてきた。両耳にひとつずつ。わたしはこういうところ保守的なので、軟骨とかやっぱりできなくて、塞がってしまった場所に上から刺しただけなんだけど。あのピアッサーのバチン!っていう音がすごい大きくてこわかった。これから一ヶ月間、またあのじんじんした痛みが続くんだなあ。


ピアスを開けるのって、合法的な自傷行為な感じもするし、痛みと引き換えにおしゃれをするっていう有無を言わせぬ暴力性も感じるし、髪を切るのと同じように一瞬にして何かを失う快感もあると思う。いずれにせよ、わたしは何かを突き抜けたかったんだろう。今のままの自分じゃだめだ、っていう焦りとか。ピアス開けたくらいで何も変わらないって知ってるけど、それでも明日は今までと違う日になることをこの痛みが保証してくれる。