カンディンスキーと青騎士展

予想してたのと全然ちがった。カンディンスキーといえば構成主義的なコンポジションのイメージだったけど、今回の展覧会ではそれより前の、カンディンスキーがアカデミックな美術教育を受けてた頃〜青騎士時代までの作品が出ていた。凡庸なことをいうようだけど、この時代の画家たちってみんな写実的な肖像画がきっちり描ける人たちなんだよね。でもそこに収まりきれない若い情熱が沸騰して、パリやミュンヘンやウィーンで芸術運動がさかんになってきたのが19世紀末。だからこの時代は特におもしろい。日本の幕末にも似ていて、前時代が終わるのはわかっているけど新しい時代がどっちに向かうのかは誰にも予測できていない時代。


写実も描ける人が、それまでのやり方をやめて実験的な色彩と構図で描き始める過程というのは興味深い。オリジナリティの追求のために、技術の高さを誇示したい気持ちを捨てた、その心理に興味がある。技術の高さなら向かう方向ははっきりしているけど、オリジナリティとか先進的な絵画って、誰も行き先を描いてくれないからひたすら自分で暗中模索するしかない。それってつらい作業だなあと、保守的な人間であるわたしなんかは思う。あ、だからこの時代の画家たちは、同志を募ってグループを組んだり、土地を移動していろんな街で絵を描いたりしたのかな。


カンディンスキーとその恋人のミュンターは、ムルナウっていう郊外の古い町が気に入ったようで、仲間も呼び寄せて制作活動を行うんだけど、その頃の作品は、どんどん画風が変化してる。でもどの作品が良いっていうよりかは、後期のカンディンスキーの作品にはないエネルギーがほとばしってて、そっちに興味がある。子どもの落書きみたいに大胆な線、絵の具そのままのような原色。


  


前々から気になってて、そしてまだ積極的に調べてないんだけど、ロシアの人の色彩感覚って赤と青がちょっと特殊なのかなあって気がする(そうすると何が平準かってことになるけれど、ひとまず日本人のわたしからして、ってことです)。前にモスクワの空港で子どもたちの絵画の展覧会をやってたのを見て、タッチは日本の子どもと似てるのに、色使いが独特だと思ったの。北のほうだから暗いってわけじゃなくて、たとえば赤はちょっと緋色がかってて、青は透き通るように鮮烈な青なの。沖縄の音階は、西洋のドレミファソラシドからレとラを抜いたらそれっぽくなる、っていうのと同じように、赤と青を変えたらいきなりロシアっぽい色彩になるんじゃないかと思ってるんだけど。それ以来、いつか世界中の色鉛筆セットを集めて比べてみたいなあ、という夢を抱いてる。


そうそう。今回初めて、カンディンスキー以外の青騎士のメンバーの作品を観た。アレクセイ・ヤウレンスキーとか、フランツ・マルク、アウグスト・マッケ、パウル・クレーもいた。マッケの画風はカンディンスキーとは全然ちがってもっと静謐な感じなんだけど、グラフィックデザインとかイラストレーションとして観てもおもしろくて、傑作を生むタイプの人ではないかもしれないけど佳作がたくさんあった。あとめっちゃ男前。


でもマッケは第一次世界大戦で27歳で戦死。青騎士も離散。その後カンディンスキーが教職についたバウハウスナチスの弾圧を受けて解散。そういう時代だったんだね…。切ないなあ。


カンディンスキーと青騎士展
会期:2010年11月23日(火・祝)〜2011年2月6日(日)
会場:三菱一号館美術館


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こないだのドガ展は、ダイアリ上げたの会期終わってからだったけど、今度は開催中です。三菱一号館美術館は企画のセンスがいいよね。今年の秋にはロートレックやるらしいよ。