ピアノ


80年代に旧「新興」住宅地で育ったわたしたちの世代にとって、ピアノというのはどういう意味があったんだろう。わたしの近所の女の子はみんなピアノが弾けた。でも考えてみたら、わたしが幼稚園当時の実家によくピアノを買うお金があったなあと思う。世間体とか気にするような家庭ではなかったはずだけど、「お友達がみんな持っているんだから、うちにもないと可哀想でしょう」という発想があったのかな。でも確か「やりたい」って言ったのはお姉ちゃんだったと思う。わたしはお姉ちゃんのまねっこしただけだった。お姉ちゃんはその後吹奏楽とか始めて今もプライベートな楽団でクラリネット吹いてるけど、わたしは全然練習しなかったから上手くならなかったし、毎週ピアノのレッスンに行くのが嫌だった記憶がある。そして高校受験を理由に中学3年でやめたのだった。

でも高校のとき、それこそ青春スーツもこもこで、自己嫌悪に苛まれて毎日泣いていた時期に、わたしを癒してくれたひとつがピアノだった。誰にも指導を受けないでひたすら好きなように弾いてた。電子ピアノでもないからうるさかっただろう。母はよく何も言わずほったらかしておいてくれたなあと思う。


あ、いま思い出してちょっと泣きそうになってきた。


昨日うちに電子ピアノが来た。CASIOのPrivia PX-100。自分で買うなら違うメーカーのを選んだと思うけど、友達が安く譲ってくれるということだったので妥協した。音質は案外気にならない。集合住宅なので音量最小で弾いてるし。鍵盤のタッチにはやっぱり少し違和感があって、あのアコースティックの重さはあまり再現されてない。それでも、自分の部屋で自分の手から音が生まれるっていうのはすごい感動だった。初めて自分用にパソコンを買ってネットにつないだとき、うわあ世界につながってる!ってすごい嬉しかった、あの感じに近い。わたしは放っておくとついリテラルな世界に逃げ込む傾向があるので、五感をフル稼働させることとか、外の世界とつながることとかの愉しみを知るたび、心から生きててよかったなあって思う。最初に鍵盤が音が奏でた瞬間(正確にはスピーカーから音が出力されるんだけど)、部屋がばら色に染まるのが見えたもの。

10年ぶりくらいなのかな。ちゃんと弾いたの。指が動かないどころか、楽譜の読み方さえあやしい。いま、弾きたい曲の楽譜を一音ずつド、レ、ミ…って確認しながら指番号書き込んでるところ。その地味な作業がすっっっごい楽しい。昨日はひさびさに寝食忘れて夢中になった。「学生卒業してからのほうが勉強したくなる」の法則と同じ。




まあ来週DELFの試験なので、そんなことして遊んでる場合じゃないんだけどね…。USTREAMとか始めて夜更かししてる場合でもないんだけどね…。やりたいことをやりたいときに好きなだけできるようになりたくてオトナになったんだから、好きなもので圧迫されてる今の状況は本望です。