賭けの論議


書きかけのエントリ、ひとつは“追悼エリック・ロメール"だったんだけど、今日『冬物語(Conte d'hiver)』観たら全部ふっとんじゃった。


冬物語 [DVD]

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エリック・ロメール。初めて観たフランス映画が『友だちの恋人』だった。まあ妥当だと思う。でも今じゃはずかしくてロメール好きとか言えない。だけどこういう機会には考えちゃうよね。ちなみにロメールは享年89歳だった。デュシャンが亡くなったのは81歳。ゴダールが今79歳だって。


今日は、ほんとは今読んでるロメールの小説『6つの本心の話(Six Contes Moraux)』に収められている『クレールの膝』の映画版を観たかったんだけど、近所のビデオ屋さんになかったので『冬物語』を借りたのでした。そしたら。


いやー…ロメールはすごいね。ゴダールとかとは全然ちがって難しいこと言わないし、シンプルでふつうすぎるストーリーなんだけど、ときどきすっごい大事なことを主人公が言う。しかも今の歳になったから判ることがある。わたしたぶんこの映画、高校生ぐらいで一度観てるんだけど、あらためて観て、あーそれわたしも思ってたけど言わなかった、ってことがあったりして本当にびっくりした。どういう話かを簡単に説明すると、昔バカンス先で出逢った男性にいつかまた会えるって信じてる主人公の女性が、現在付き合ってる男性たちと順番に別れて、大晦日の夜、ずっと想ってたその男性とついに再会する、それだけの話。ドラマみたいに軽い。でも元ネタはシェイクスピアなんだね。「一度失ったものは再生しない、それでも再生することを信じて賭けられるか」というテーマを恋愛仕立てにしたのがこのロメールの映画、なんだと思う。(ちがうかもしれないけど映画史も文学史も詳しくないので許してほしい)


パスカルの「賭けの論議」の話がおもしろかった。ロメールってパスカル好きだよね。でもよく知らなかったから、観終わってから魔法の箱に尋ねたよ。『パンセ』に書いてあるらしい。パスカルは信仰について「得るときは全てを得、失うときは何も失わない」といったそうで、神が実在することに賭けても失うものは何もないと考えたそう。それを映画の中では、自分を無教養だという主人公のフェリシーが"神"じゃなくてその"忘れられない人"について同じことを言ってたので、「君と同じことを僕の知ってる聡明な人が言ってたよ」とある男性がコメントしたのだった。


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あー。会いたい人に早く会いたい。手をつなぎたい、それ以外ほんとに何もいらない。それはわたしの賭けの論議、だからその未来が不可能になったらどうしようとか考えてない。考えてもわたしひとりではどのみち答えの出ないことだから、今はただひたすら信じてる。