文筆家・堺雅人

やっっっと読めたの!

文・堺雅人

文・堺雅人


ほんとは8月28日発売のはずだったんだけど、アマゾンでも扱ってないし、
HMVオンラインでも予約できなかったので、「発売当日、本屋さんに買いにいこう」って思ってたのよ。
そしたら、売ってないのね。大きい書店でも「取り扱ってない」「在庫切れ」って言われて、
仕方がないからHMVで予約できるまでずっと待ってたのでした。


そしたら。



やー、第2刷でこんなに嬉しかったのって初めてだわ!
アラシのミリオンよりも嬉しかったよ。3日で増刷!
店頭に並ばないのわかった、見込みが甘かったんだね。
しかも今でもアマゾンでは「通常1~2か月以内に発送」らしいよ。がんばれシナノ(印刷所の名前)!



                *


さて中身ですが。
テレビナビといえば、新選組マニアあるいは山南ヲタが編集部内にいることでおなじみの雑誌。
その1ページで連載してた「文・堺雅人」の書籍化です。
わたしは何度か飛ばしてたと思ってたんだけど、読んでなかったの1回だけだった。
トライアングルを途中で脱落した時期だね。(そしてどうでしょうにはまってた時期でもある)
でも堺さんの仕事でいちばん好きなの、やっぱりこの文筆業だな。
「髭」とか暗誦できるほど読み返したから、加筆したところわかるのがまたおもしろい。



でもあらためて読むと、この人の姿勢は一貫していて落ち着くなぁ。
一時期は「またカベムシの話…」「また高校の話…」って思ってたけど、
それはインタビューで訊かれるからであって、放っておくとこの人の引き出しは古今東西に及ぶ。
なのに書き方はすっと芯が通っている。
わかることはわかる。わからないことはわからない。
それでいて、わからないことに対する後ろめたさとか過剰な自己防衛とかとかがなくて、
思慮深くありつつも行雲流水を地でいくような、とても東洋的な人だと思う。
西洋人が憧れるようなオリエンタルなさっぱりとした気質。それこそ利休の茶室みたいな。
あー。だいすき。(あ、指が勝手に)



読み終わってからもその余韻にうっとりしちゃう。
この人の文章が本当に好きだ。
文体も、リズムも、ひらがなと漢字とカタカナの表記へのこだわりも。
わたしはたぶん、この人の顔も声も知らなくてもこの文章だけで恋してしまう気がする。
役者なのにねぇ。ごめんねぇ。
でも残念だけど、山南さんを超える役柄はまだないのですよ。わたしにとっては。



そういえば全体を通して「風姿花伝」あるいは世阿弥への言及が多いことにあらためて気づいた。
まあ役者の基本だけどね。(いやそれも偏ってるかもしれないけれど)
あとやっぱり堺さんの引用に教養が感じられるのは、堺さんは古典を読んでるからだと思う。
「エセー」しかり。「論語」しかり。
名前だけ知ってる人はたくさんいるけど、実際に読む人がどれだけいるのだろう。



それから。
堺さんはこんな風に理論で考える人だけれど、
一方で役者だから、身体活動に対する意識がやっぱり特殊だなぁと思った。
「カラダは新幹線で高速移動してもアタマのほうが追いつかない、自転車の速度で後からやってくる」とか、
「コトバがココロと噛み合わず、ツルツルうわすべりをおこしだす」とか。
この人は、「カラダ」と「コトバ」と「ココロ」がそれぞれ自分の中で別々の活動しているのを
分析的に捉えられてるんだと思う。
それを実際に確認するために、肉食になったり、煙草やめてみたり、実験をするんだろう。
個人的な思索に溺れず、実務に生かそうとする人。
彼はこの連載を始めるまで、この作業をずっとひとりでやってきたんだね。
おもしろいよほんとに。



同じ時代に生まれてよかったと思う人は数あれど、
この人ほどわたしの人生観に影響を与えた人はいないと思う。