鳥の巣


こんな巨大なプロジェクト、ぜったいやりたくない…!

映画『鳥の巣 北京のヘルツォーク&ド・ムーロン』
http://www.torinosu-eiga.com/


先週森美術館に行ってきたのは、これを観るためでした。その日は美術館閉館後にMAMCナイトというイベントが催され、会場内最後の部屋で、アイ・ウェイウェイのおじさんのヴィデオアート(なのかな。見てないから判断できない)の代わりに『鳥の巣』を上映してくれたのでした。で、その感想第一声が↑。


ところでヘルツォーク&ド・ムーロンといえば、ニアリィイコールもとやまさん。他の学部の研究室でもそうなのかもしれないけど、芸術学やってると特に「この芸術家/デザイナー/思想家といえばなになにさん」という連想がいまだにすごく強烈。例えていうなら友達の彼氏みたいな感じで、他の誰かが研究している対象には絶対踏み込めないような、暗黙の不可侵条約がある気がする。


というわけで不思議な距離感を保っていた、わたしの敬愛する先輩のかつての恋人*1の映像を観る機会に初めて恵まれました。ヘルツォークとド・ムーロンの顔を見たのも初めて。ヘルツォークのほうがSでド・ムーロンのほうがMだと思いますが、どうでしょうか。そんな推測の報告いらないですか。


               *


内容は、北京オリンピックのあの競技場が出来るまでのドキュメンタリー。中国に事務所を構えるところからストーリーは始まります。そして中国当局と契約を交わしたり、鳥の巣の設計プランを固めたり、プロジェクト推進メンバーが決まったりしてようやく着工。けれど着工したとたん、スイス人のH&deMと中国人との摩擦が顕著になってくる。当局からは予算を削られ、工期を削られ、しまいには、「鉄じゃなくてプラスチックで造れないのか?」とか言われる始末。それからは交渉交渉交渉交渉…の合間にド・ムーロンの愚痴。


いや、ド・ムーロン、がんばったよ!わたしなら発狂してる。


ってか、建築家ってあんなに交渉(というか舌戦)しなきゃいけないの?デンツウとかそういう代理店みたいなの、建築業界では間にはさまないんだ?予算とか工期とかを確保することと、建築デザインを考えることは、全然別の才能でしょ。映画で言ったら、プロデューサーと監督と進行管理を全部兼ねてるようなものだよ。(あ、だから二人で組んでるのかな?)


あんなにおっきなプロジェクトで、しかもあんなに実験的な構造。あの鳥の巣、近くに寄るとすっごい大きいんだね。そりゃあそうだよね。国立競技場よりも多い人数収容するんだもの。「スイスではこの規模の建築は出来ない」って二人のどちらかがいってた。世界に誇れる巨大で斬新な公共物を造りたい!っていう情熱がこのプロジェクトの推進力になってたんだろうね。


そういえば少し話題は逸れるけど、以前パリのモンパルナスタワーに登ったとき、あの古い街のなかでとにかく目立っていたものが二つだけあった。ひとつはエッフェル塔の高さ、もうひとつはポンピドゥー・センターの原色。その景色を見たとき、パリの美意識っていうのはこういう感じなんだろうなぁって気がした。


H&deMは、ああいうダイナミックな挑戦を実現したいんだろうなぁって思った。
街の風景を一変させるような実験的な建築物を、都市計画と併せて堂々と造り上げる。
その代わり、ゆくゆくはその街の象徴となって地元の人を認めさせるように。
あのスチールウールみたいなのが乱立する街にしてはいけないんだろうね。
中国という四千年の歴史の上に、ふんわりと鳥の巣を配置する。
それは確かに外部の人間じゃないと出来ない「歴史の壊し方」だ。
アイ・ウェイウェイみたいに、骨董の壷を落として割るのとは全然違うアプローチ。


               *

正直、アイ・ウェイウェイ展よりこちらのほうがおもしろかったよ。だけどもうロードショー終わってるね。すみません、業務上の特権でした。でも観れてよかった!

*1:ただし2人1組 笑