東京でいちばん好きな交差点


夜と朝が好き。昼間がきらい。清少納言だって、あけぼのと夜と夕暮れとつとめてを推奨しているでしょう?夜中の静かな時間に思う存分ひとりで遊んで、ちょっと眠ってから朝早起きして、昼間眠くなったらお昼寝する。という生活ができたら最高なのに。


昨日の夜、森美術館の館内が寒かったので歩いて帰ろうとしたら、ツタヤとスタバのある六本木の交差点に出た。本屋さんとコーヒー。神保町とは全然ちがう、大人と外国人のいる交差点。


わたしには夜に叶えたい夢が2つあった。ひとつは女の子の友達とファミレスで語り明かすこと。もうひとつが、ここのスタバでひとりで本を読むこと。どちらも簡単なことかもしれないけれど、これまで機会がないまま東京生活4年を迎えようとしていた。いや本当はここのスタバには、いつか一緒に来て徹夜でおしゃべりしようって恋人と計画していた。だからこれまで入らなかったんだけれど、昨日は吸い込まれるようにひとりで入ってしまった。こういうことするから怒られるんだろうなぁって頭では判ってるのに。


ツタヤの品揃えにはそんなに心魅かれるところはなかった。六本木仕様なんだろう。英語の本がたくさん。ティエリー・ド・デューヴのデュシャン論と、北山研二さんのレーモン・ルーセルの本を手にとってみたけど、ハードカバーを買いたくなかったから結局クーリエを買ってしまった。ほりえもんの名前が表紙にあったから今月はいいやと思ってたんだけど、消去法でこれになった。そしてスタバでコーヒーを買った。わたしは「キャラメルなんとかマキアート」とか頼まないし、ラーメンもおうどんもそれひとつで頼む。「ラーメンにシナチクとかチャーシューとか乗せてよりおいしくしたい」という糸井さんの世代とはちがうらしいけど実感はない。


明日は平日。テーブルについて最初に終電を調べたわたしは常識人だ。でも頭は旅行者のそれ。パリの夜は長かった。ほとんどひとりで過ごしたあの街の空気を思い出す。そういえば、すぐそばにあるマンションでは昨日おしおまなぶがつかまった。わたしにはヒルズのレジデンスより、目の前のクーリエに載ってる「宇宙空間での生殖行為に対するNASAの態度」の記事のほうが興味深かった。まあ変わらないといえば変わらない。周りには本当に外国人が多かった。カップルも家族連れもひとりの人もいて、これが夜じゃなかったら亀有アリオに来ている客層とほとんど同じ。人種は少しだけちがう。


終電の時間になって、わたしは帰った。身体は少し汗ばんでいて、早くお風呂に入りたかったから。でももしわたしが会社員じゃなかったら夜が明けるまでここにいただろう。


    「大人になるということは、ストッキングをはくことだと思う」*1


今日の朝はいつもより早く目が覚めた。いつもより仕事もはかどった。でも頭はずっと遠くにある。遠いところにいる自分がここにいる自分を、人形使いみたいに動かしてる。

*1:狗飼恭子『雪を待つ八月』